言語学習においては、アプローチが様々あります。詳しいことは第二言語学習理論などでググってみるとたくさん情報が出てきます。クラシック音楽を聴きながら勉強するという、美味しい果物を育てるような学習アプローチ「サイレントウェイ」が大真面目に行われているという事実もあります。
ここでは、正反対のアプローチである二つを取り上げてみます。
一つ目は日本のほとんどの公立中学校や高校で取り入れられている「文法訳読法」というアプローチで、内容は次のようなものです。
<文法訳読法でやること>
・読解に必要な語彙や文法規則を学ぶ。
ここでは、教師が文法規則を細かく説明します。語彙はリストを見ながら暗記します。文法を正しく理解しているか、語彙を多く知っているかがポイントになります。
・テキストを見て、外国語を日本語に訳す、あるいは日本語を外国語に訳す。
ここでのポイントは翻訳の正確性です。翻訳が正確なほど、理解が高いと評価されます。
これらのことが授業の中心になり、これをもとにテストが行われ、学習言語のルールや語彙や語彙についての知識が評価されます。
反対に、言語運用という視点から、このアプローチでやらないことをあげてみましょう。
<文法訳読法でやらないこと>
・学習言語で話す
先生の説明、生徒の質問や発言もほぼ、母語(日本語)で行われるので、翻訳はあっても、自主的な発話はありません。
・学習者間のインタラクション
生徒同士で学習言語で互いに話すということはありません。
・音声を聞いて理解する
テキスト理解がメインなので、音声を聞いて内容を理解するということはやりません。
・作文やスピーキング練習
テキストを理解することがメインなので、自分の考えを学習言語で表現することはほとんどありません。
・発音トレーニング
学習言語での発話には重点が置かれていないので、発音の正しさは二の次です。
いうわけで、実際に学習する言語を運用する、つまりその言語で聞く、話す、考えを表現する等については、ほとんど重点は置かれていません。
もうひとつのアプローチは、「ナチュラルアプローチ」と呼ばれるものです。これは、日本の教育現場ではあまり馴染みはありませんが、子供が言語や音楽などを学習するプロセスに似せた方法で、まずはたくさんの音声によるインプットを行います。ただひたすら聴くだけです。その後、講師は学習者に非常に簡単な質問をして、学習者は答えていくものです。最初は単語レベルの答えになりますが、だんだんと文ができるようになります。ただし、そこでも文法的な誤りなどについてはフォーカスせず、コミュニケーションができるかどうかに重点を置いています。
<ナチュラルアプローチでやること>
・聞く
学習初期はひたすら聞くのみです。そこで語彙や語順などのルールもなんとなく学びます。
・話す
とにかく意味のある語や文を発します。文法的な誤りはあまり気にしません。
<ナチュラルアプローチでやらないこと>
・語彙の暗記
自然に覚えること以外の強制的な暗記作業は行いません。
・文法の学習
文法のルールは説明しません。
・テキストを読む
テキストを読んで意味を理解するという作業はおこないません。
・書く
文法や語彙の練習問題などは行いません。
このアプローチは、口頭での運用面のみに特化した学習方法と言えます。知識というよりも、体で覚えるタイプのアプローチで、学校で学ぶ教科としては、評価基準を作るのが難しいかもしれません。文法的には間違いだらけの文でも、言われたことを理解し言ってることの意味が通じればOKのような側面があります。知識の評価(=間違い探し)がなされない分、学習者は間違いを恐れず話せるという、心理的安全性が保たれており、積極的な発言が担保されるのが特徴です。
両極端な二つのアプローチを取り上げてみましたが、実際にが言語学習をする際は、この両方のアプローチや、これら両極の間にある他のアプローチの組み合わせで行われます。しかし公教育の場では、大学受験があり、言語の規則や語彙知識に重点を置くアジアでは、「文法訳読法」に偏りが見られ、運用スキルに重点を置くヨーロッパの国々では、「ナチュラルアプローチ」に寄せた学習方法が採用されており、運用面の評価方法「セファール CEFR」も確立されています。
参照:https://www.cambridgeenglish.org/jp/exams-and-tests/cefr/
日本の学習者を見てみると、学習者の態度として、「文法訳読法」的な学習方法を採用している人が多く見られ、この傾向は年齢が上がれば上がるほど強くなることから、学校での経験が色濃く反映されているものと考えられます。語学学習が速い学習者は、教室ではコミュニケーション重視の「ナチュラルアプローチ」、自習では知識重視の文法や語彙をゴリゴリ学ぶといったハイブリッド型です。
自分が勉強をする際、あるいは学校や語学スクールに行ってレッスンを受ける際に、自分がどんなアプローチで何をやっているのか、分析のための参考になればと思います。
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