学習

 当スクールがどのような学習アプローチを推奨するかを話す前に、まず、最近の語学スクールのトレンドについてお話させていただきます。


 私は海外に行く方々を対象にフランス語の指導をして20年になります。自分の学習歴を含めると30年になります。この30年で語学の学習事情は大きく変わりました。どう変わったかというと、あまりお金と手間をかけなくとも、学習はでいるという環境ができているという状態です。それは、学習プロセスが変わったことを意味することではなく、単に環境が学習者フレンドリーになったということです。

特に英語学習においては、多くのスクールでAI分析やコーチングを謳った自主学習システムが導入されるようになりました。これに、オンラインレッスンを組み合わせるのが主流となっています。簡単に例を挙げてみます。


・短期集中型コーチングサービス付きのスクール

例えば、有名な短期集中で成果を出す学習と謳う語学スクールの学習の流れとしては、以下のようになると思います。


 ① 一人の生徒に講師とコーチ(カウンセラー)がつく

 ② 担当講師と会話レッスンを行い、コーチがカウンセリングする

 ③ スクールから送られてくる課題で、大量のシャドーイングをやる

 ④ 1日3時間くらい、宿題と勉強をこなす


 具体的にはどういう流れで授業とカウンセリングが進むのでしょうか。


学校の授業では、文法や読解問題をする時間が多く、リスニングやスピーキングの練習は極端に少ないです。その結果、聞く・話す力はついていないので、レッスンの報告を受けた英語のコーチ(カウンセラーとも呼ばれる)付き英会話スクールのコーチは、必ず「瞬発力不足」が課題だと指摘するでしょう。そして宿題として、授業で聞き取れなかった単語やフレーズをすぐに理解できるようになる"自習教材" を与えられます。それは多くの場合 "シャドーイング教材" です。”シャドーイング”とは、もともとは同時通訳を目指す人のトレーニングで、音声を聞きながら、そのまま追いかけて同じようにリピートする練習方法です。大量のシャドーイングを正しい方法でやれば、リスニング能力は上がるし、スピーキングも覚えたフレーズのうち何割かは滑らかに言えるようになれます。確かに分析もトレーニング方法もその通りなんです。

しかし、“すごい成果が出て満足だ”と感じられればそれでもいいのですが、結局は "完璧にできるまで反復した部分ができるようになる“のがほとんどで、理屈で理解できていない、自分で分析せずにそのまま覚えたフレーズは、他の場面で応用ができず、再現性・汎用性の低い学習をするという形になります。一番の問題は、シャドーイングをすることが目標になってしまい、文の構造をしっかりと理解せずに、「シャドーイングができたから、このフレーズは使える」と信じてしまう事です。シャドーイングは基本的にはリスニング能力を鍛えるトレーニングで、シャドーイングができたことと、そのフレーズで会話ができるかどうかは、まったく別の話です。日常生活はかなり複雑で、その瞬間に浮かんだ自分の考えが、覚えたフレーズでそのまま言い表せるほうが少ないかと思います。

 

 音声の理解は言語理解の第一歩なので、音声によるトレーニングは学習の根幹です。ただし、これはあくまで一つのトレーニング方法に過ぎず、それだけでは不十分です。しかも瞬発力ほとんどの日本人に共通の課題で、(高い)お金を払ってやることなのかは疑問です。やり方やレベルさえ間違えなければ、学校や市販の教材、インターネット上の情報を使って自分でもできるでしょう。


・AIやアプリによる学習

 最近ではAIを使って1人での自己学習を管理する英会話の大手スクールのビジネスモデル、とても多いですよね。スマホのアプリで、家や通勤通学中に多くの語彙や表現をたくさん学ぶことが可能です。そしてこういったサービスの料金はとても良心的です。何度も繰り返して練習ができて、もちろんそれなりの効果はあり、達成感も得られるでしょう。

 人気の理由は他にもあります。語学学習の上達を阻む大きな壁である「間違えたくない壁」がないことです。一人で学習する場合、学習者は誰にも見られていないので、恥ずかしい思いをしないし、わからないという現実を突きつけられることもなく、 "勉強している" と思えるからです。アプリは、いつまでも待ってくれますし。スクール側もデータが取れるし、そのデータを編集するだけで、教えるという手間がかかりません。ここでは、間違ってはいけないと思っている学習者と、間違いを指摘し正しいことを教えなくてはならないと思っている指導者の関係がなくなり、学習者は間違いを指摘されることもなく、正しい答えをすぐに得られます。

 AIは問題の正解・不正解をデータにして、間違ったものと類似の問題を繰り返させます。それ自体は正しいドリル練習です。その言語の基礎的なフレームが既に定着していて、後は語彙や定型表現を増やすだけで良いとか、短いフレーズでの発話でOKという方は、それで十分かもしれません。なので、部分的な強化のような補助的なものには使えますが、本番環境には程遠く、スポーツ選手がある特定の筋肉のみを鍛えているようなものです。

 加えて、それだけでは文や構文を体系的に理解し、複数の文を「だから...」とか「とは言え...、」「ということは、例えば~の場合...」というように、連結させながら会話を広げていくという、実践的なコミュニケーションを発展させる能力にはつながりません。結果、スマホ相手には言えるけど、人相手にはなぜかうまく話すことはできないといった事も起こります。

 実際の会話相手は、いきなり去年の話をし始めたり、学習者の話したいトピックついて質問を投げかけたり、詳しい説明を求めたり、意見を求めたり、引き出したり、自分の理解を深めるために質問したり、深くうなずいたり、突然話を変えたり、大きな声で笑ったりします。もちろんAIはこれからも飛躍的に発展するかもしれませんが、今はまだ人との学習に追いつくレベルではないと思います。実際の会話の相手は、相手の話をさえぎって自分の意見を言いますし、質問も遠慮なくしてきますから。


 いろいろ総合的に考えると、やはり多面的なアプローチが必要な基礎学習には、アレンジ能力の高い人とのやり取り(マンパワー)が有効だし大切だと考えています。特に学習初期は、文型などのフレームワークから、単文をつなげて会話を発展させる練習を一貫してやることで、話の展開や筋道に慣れていき、自然と会話を楽しむことができるようになると思います。


「短期間で成果を出す」を目指さない


COICHI LANGUAGE SCHOOLは "3か月で成果を出す"ためのスクールではありません。

え、だらだら非効率的にやるの ? \ というツッコミをいただきそうですが、そういうことではなく、"じっくり考え、構造を理解し、自分の考えをフランス語で伝えられるようになることを目指すスクール"です。

仕事で時間のない社会人の方は"このフレーズを覚えていれば、ビジネスシーンで使える"といった学習が良いのかもしれません。旅行ガイドに載っている表現なども同様です。もちろん、便利な定型句を覚えることで、偶然、その場を乗り切れることはあります。しかし“決まった場面で決まったフレーズを使って乗り切ったということが、汎用性が狭く状況が変わると使えないという意味で、”フランス語が上達した”とは違うと考えています。

 語学学習を基礎からやるとするならば、ある程度の時間は必要だと考えています。そういう考えから、“特定のフレーズを覚えることで”特定の場面のみを乗り切る”というような目的での学習はしません。あくまで、同じ文型を使ってもいいので、様々な場面で通用する作文ができるようになることを目指したいと考えています。


語学学習に取り組む際に、次の点はとても大切にしています。


・「最短」とか「近道」、「これさえやっていれば」といった学習方法はかなり怪しい

・語彙は覚えるしかない(方法は色々ありますが)

・構造を理解し、その構造に自分から乗らなければいけない

・理解をスムーズにするために、リズムやアクセントには気を遣う

・文の構造の中で使われる語彙とその品詞をしっかり認識し、説明できる

・覚えた語彙、理解した文型を使って、自分の考えを正しい形で伝える

・会話では完璧は目指さず、ある程度の間違いはスルー


語学は学び始めてすぐに成果が出るものではありません。長期的かつ総合的な視点で、学習者それぞれに合った学習方法を模索し、フランス語の会話力の向上につなげて行きたいと考えています。